* Unicode (UTF-8) 本テキストはUnicode (UTF-8) で書かれています。JIS第1 ~2水準以外の漢字も使われています。 ★ 拙作フォント群の「JIS X 0213:2004」対応について ▼ 「JIS X 0213:2004」 「JIS X 0213:2000」の追補版である「JIS X 0213:2004」が、2004年2月20日 (金) に出されました。70ページほどのもので、様々な点で変更・追加点があ りますが、Y.OzFont群に最も影響の大きいものと言えば、「例示字形の変更」 でしょう (まあ、70ページほどと言っても、元の2000の方が550ページ程度で すから、かなりの量であるといえますが)。以下の168文字について「例示字 形」が変更されました。1文字を除いて、第1~2水準の漢字です。 ┌────────────────────────────┐ │逢芦飴溢茨鰯淫迂厩噂餌襖迦牙廻恢晦蟹葛鞄釜翰翫徽祇汲灸笈│ │卿饗僅喰櫛屑粂祁隙倦捲牽鍵諺巷梗膏鵠甑叉榊薩鯖錆鮫餐杓灼│ │酋楯薯藷哨鞘杖蝕訊逗摺撰煎煽穿箭詮噌遡揃遜腿蛸辿樽歎註瀦│ │捗槌鎚辻挺鄭擢溺兎堵屠賭瀞遁謎灘楢禰牌這秤駁箸叛挽誹樋稗│ │逼謬豹廟瀕斧蔽瞥蔑篇娩鞭庖蓬鱒迄儲餅籾爺鑓愈猷漣煉簾榔屢│ │冤叟咬嘲囀徘扁棘橙狡甕甦疼祟竈筵篝腱艘芒虔蜃蠅訝靄靱騙鴉│ └────────────────────────────┘ ほとんど、旧字体・正字体への回帰といえるような変更です。 JISでは、次に掲げる3つの部首は包摂 (ほうせつ。同じ字として見なすこと) する規定になっています。「シンニュウの1点と2点」、「示偏/ネと示」、 「食偏の下部のムとI=」(「館」と「餃」の偏の違い。標準的なフォントで見 てください。Y.OzFontでも可) です。これらは見た目はかなり異なるように思 いますし、また実際に使い分けていらっしゃる方も多いと思いますが、JIS的 にはこれらは「同じ字」なのです。この例示字形の変更は、「1点シンニュウ を2点」「ネを示」「ムをI=」(上記の漢字に食偏そのものはありませんが) に 変えるものがメインとなっています。 あとは、「戸」の上の「一」を「ノ」にするとか、「ツ」を「ノヽヽ」にする とか、「尊」の上の「ソ」を「ハ」型にするとか、「弱」の中を「ン」ではな く「ノ」2つにするとか、総てが旧字体へ戻すための変更に思えます。 (補足) もっとも、83年改正を総て元に戻すものでもありません。例えば、「唖」は 「SJIS 88A0, U+5516」ですが、その旧字体「啞」は「U+555E」で既に Unicodeに定義されています。この場合、「唖」の例示字形を「啞」にして しまうと、Unicode上には「啞」が2ヶ所にできることになってしまいます。 この様な文字に対しては例示字形を変更しなかった、と言うより、できな かったものと思われます。まあ、「啞」の字自体、JIS X 0213:2000で定義 されましたがね。 そのため、以下の10文字に対しては、その旧字体・正字体が既にUnicode上 にあるので、その既にある文字を新しくJISに取り込むことで対応するそう です。 ┌──────────┐ │倶叱嘘屏痩剥呑妍并繋│ └──────────┘     ◇ ◇ ◇ 経済産業省のプレス発表「JIS漢字コード表の改正について ―168字の例示字 形を変更―」には、次のように書かれています。 3. JISは、漢字に対する符号 (コード) を定める規格であり、字形は規定し ていない。このため、JISにおいては、今回の改正によって変更された字 形と変更前の字形は、どちらも同じものとして取り扱っている。したがっ て今回の改正が、パソコンなどに搭載される字形の変更を求めるものでは ない。 「パソコンのフォントは変更する必要はないのだ」と言っているように思いま す。しかし、次の項目で、 4. しかしながら、一般にパソコンなどに搭載される字形については、JISの 例示字形を基に作られることが多い。したがって、今回の改正によってパ ソコンなどに搭載される字形が、徐々に印刷標準字体に変更されることが 期待される。 と書かれていると言うことは、結果的に「パソコンのフォントも、緩やかでは あっても、徐々に今回の例示字形になって行くであろう」と言っているのと変 わりません。 と言うことで、この168字について書き換えたフォントを作ってみました。た だ、今回の例示字形の変更は、例示に使われている「明朝体」に限って意味の あるもの (明朝体のデザインそのものに関わるもので手書きで行う場合には全 く差を付けられない漢字) もあるため、そういった文字は書き換えを行ってい ません (と言うより、できません)。そのため、総ての字を書き換えた訳では ないことをお断りしておきます。 ▼ 既存のフォントの対応と問題点 しかし、作っては見ましたが、全面的にこの【JIS X 0213:2004対応版】をメ インとして置き換えるつもりは、今のところありません。それには、以下のよ うな理由があります。 JISでは包摂されてしまうけれど、使い分けたいと言う漢字はたくさんありま す。今回の例示字形が変更された漢字の中で見ると、例えば、苗字によく使わ れる「辻」という字です。多くのフォントでは1点シンニュウになっています が、2点シンニュウの「辻」を使いたい方も多いでしょう。しかし、この2つは JISでは包摂されてしまっていて、普通の方法では使い分けることはできませ ん。 そのため、拙作のフォント群では、通常の辻を1点シンニュウとしておき、外 字として2点シンニュウの辻を入れる、と言う方法を採っています。これな ら、文字コードの汎用性は失われる (他のフォントに切り替えると、表示でき なくなる) ものの、一応「この字が出したい!!」と言う欲求には応えることが できます。 この状態で、新しい「JIS X 0213:2004」の例示字形に合わせて、辻を2点シン ニュウにしてしまったらどうなるでしょうか。今度は、1点シンニュウの辻が 無くなってしまいます。では、外字の方を1点シンニュウしたらどうでしょう か。確かに表示はできるようになります。しかし、手書きフォントを年賀状に 使われる方も多いと思いますが、その宛名リストの辻の1点と2点が総て入れ替 わるという事になってしまいます。やはり、いったん決めた字は変えないのが ベストのように思います。 同じ問題は、OpenTypeFontでも起こります。1点シンニュウの「辻」は、 「CID 3056」で「SJIS 92D2, U+8FBB」に対応しています。2点シンニュウも必 要だろうと言うことで、こちらは「CID 8267」に用意されています。対応する JISコードやUnicodeは無い、つまり直接JISやUnicodeで指定するのではなく、 異体字としての使用 (あるいは直接CID指定) になります。これも、例示字形 の変更に伴うとすると、拙作のフォントよりももっと大きな問題が起こること になります。 他にも、「芦」は「CID 1142, SJIS 88B0, U+82A6」でその新例示字形が 「CID 7961」、「茨」は「CID 1205, SJIS 88EF, U+8328」でその新例示字形 が「CID 7962」、等々たくさんあります。新しい例示字形をメインに採用する と、これらの文字にも影響は起こります。     ◇ ◇ ◇ JISでは、「包摂されている字はどれも区別しない」と言う立場を前提に改訂 を行っている訳で、なるほどその立場で考えれば例示字形の変更やフォントの 字形の変更も問題はないと思われます。「情報通信のための日本語文字コー ド」と言う観点からは、極力コードの総数は少ない方がよい訳です。「たかは し」が「高橋」と言う漢字であるのが伝われば、その高が高であるか髙である かはどうでもよいことで、高か鷹かは拘ってもそんな細かい字形のことまでど うでもいいじゃないか、って話になるのもよく分かります。 しかし、一般的なパソコンユーザで、そういった立場で考える人はごく少数で はないでしょうか。パソコンをワープロとしてのみ使う人 (案外多数派かも知 れません) が、「1点シンニュウの辻と2点のそれとは、実は同じ文字なんだ よ。高と髙も同じ字なんだ」と言われたところで、信用するとお思いでしょう か。そんなことを言ったところで返ってくる答えは想像が付きます。「いや、 私の出したい字は2点シンニュウの辻なんだよ」「いやいや、こっちの髙の方 だ、高じゃないんだ」云々。 もし、JISで包摂されている字が総て区別しなくてよいと考える人が多いので あれば、多くの市販フォントに付いている膨大な外字はいったい何なのでしょ うか。中には「人名用」と銘打って、1,500とか1,800とか外字を収録している ものまであります (拙作のフォントですら、300以上入っています)。「土口の 吉」は言うに及ばず、60以上も「辺邊邉」の異体字を収録していると言ってい るものさえあるくらいですから、多くの人にとって「包摂されている字も使い たい!!」、「字はあればあるだけ良い!!」と言うのが本音だと思います。ま あ、「あればあるだけ良い」にはご異論をお持ちの方も多いでしょうが。 そんな中で、「今回の改正によってパソコンなどに搭載される字形が、徐々に 印刷標準字体に変更されることが期待される」と言うのは、印刷業界などにお ける現状をどのように見ているのでしょうか。例示字形の変更に合わせてフォ ントの変更がなされてくるとすると、どのフォントが「JIS X 0213:2000」の 例示字形準拠か、「JIS X 0213:2004」の例示字形準拠かを調べて、どの文書 ファイルがどちらの例示字形を基に作られているのか見極めた上で文書を扱う 必要が出てきます。わざわざユーザが外字ファイルを作成したり、OpenTypeの 規格 (Adobe Japan 1-?) で決めてまでして、1点と2点シンニュウの辻を使い 分けたりしているという事はどう捉えられているのでしょうか。もっとも、 JISの包摂した字通しは総て同じだという認識をしている人がいるのなら、上 記の問題は全く生じない訳ではありますが。 もっとも、規格を作ったJISに言わせれば、「そんな用途のために作ったので はない」と言われるでしょうがね。だって、元はと言えば「情報通信のための 日本語コード」であって、そんなJISコードを、ワープロやパソコン業界が、 ワープロとして使う漢字のコードに採用してしまったのが諸悪の根元でしょ う。「伝われば良いと言う情報通信用の文字コード」(あくまで極論ではあり ますが) と「1文字/\正確に文字を出したい印刷業界の文字コード」が一致 するはずはないのですから。まあ、だからといってこの2者を全く別々のもの にしておくのも不便極まりないのですが。 ▼ 結論 で、Y.OzFont群の対応は━━……‥‥・・、どうしましょう。(^o^; ご意見、お待ちしております。m(_"_)m