◆◇◆◇ JIS X 0213:2004の問題点 ◆◇◆◇

 
* Unicode (UTF-8) 本テキストはUnicode (UTF-8) で書かれています。JIS第1~2水準以外の漢字も使われています。
 

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   I JIS X 0213:2004での例示字形の変更

 
 JIS X 0213:2004(以下JIS2004)では、JIS X 0213:2000(以下JIS2000)に対して変更が行われています。その一番の目的が、「例示字形の変更」であったことはいうまでもありません。経済産業省の発表にもあるとおり、今回の改正は「JISの例示字形を、国語審議会で答申された表外漢字字体表の印刷標準自体に改め、JISを国語施策と整合させるもの」であるとされています。
 
 このことは、本来JISが「情報通信用文字コード」を策定していたはずであったにもかかわらず、既にJIS漢字コードが「国の国語施策の一環」にまで格上げされていること、JIS単独で動けるものではなくなってきていることを意味しているように思います。
 

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   II 178文字の例示字形の変更

 
 JIS漢字は、「包摂」という考え抜きに漢字を決めることはできません。例えば、人名によく使われる「辻」という漢字はシンニュウの点が1つのものと2つのものがありますが、どちらもJIS的には「同じ漢字」だと見なして、単一の漢字コードを与えることとしています。他にも、「上が士である吉(士吉)」と「上が土である吉(土吉)」、「亠の下が口である高(口高)」と「亠の下がハシゴ状に繋がった髙(ハシゴ高)」、「ヘンが区の鴎」と「ヘンが區の鷗」、「上がノの呑」と「上が一の呑」、等々、「同じ漢字であると見なす」(=包摂)という考えで1つにまとめて考えられています(一部、過去形)。
 
 ただし、JISが漢字コードの一覧表を作成する場合、「JISコード3962の文字は、高い低いの高いを表す漢字のことです」というような記述を総ての漢字において行うことにすると非常に面倒なことになるため、たくさんの漢字が包摂されている場合であっても、表示「例」として1つの漢字を「示す」だけに絞ってあります。ここで用いられる漢字々形「例示字形」と呼びます。
 
 この例示字形、本来は「単なる例示」のための字形に過ぎないはずですが、フォントメーカとしてはその例示字形通りにフォントを作っておけば取り敢えず問題は無かろうと言うことなのでしょう、市販のフォントは特に但し書きのない限りほとんどその例示字形通りに作成されています。このことは、裏返せば、「JIS的には同じ文字」であるとされている漢字であっても、一般的には同じであるとは認められない、例えば「高橋」と「髙橋」は別物であると誰もが思うように、JISとしては包摂関係にあっても世の中ではそれは通用しないことを意味します。JIS的包摂を真に受けると、A社のフォントで「高」と言う字を打ったのに、文章そのままにフォントだけB社のものに変えると「髙」になったと言うことが起こります。これでは使えたものではありません。と言うことで、その「標準」に「例示字形」を用いるようになったと思われます。
 
 経済産業省の書類では、「JISは、漢字に対する符号(コード)を定める規格であり、字形は規定していない。このため、JISにおいては、今回の改正によって変更された字形と変更前の字形は、どちらも同じものとして取り扱っている。したがって今回の改正が、パソコンなどに搭載される字形の変更を求めるものではない。」というものであるが、「しかしながら、一般にパソコンなどに搭載される字形については、JISの例示字形を基に作られることが多い。したがって、今回の改正によってパソコンなどに搭載される字形が、徐々に印刷標準字体に変更されることが期待される。」という記述になっています。
 
 あくまでも「例示」であり「変更を求めない」と言いながらも、「例示通りに変更されることを期待する」としているのです。このことは、「事実上、字形変更」であると言い切っても良いと思われます。
 

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II.1 実際に変更された168文字

 
 178文字の例示字形を変更するにあたり、168文字まではこの「包摂」の範囲内で変更が可能なので、「例示字形の変更」で対応するようになりました。
 
 例示の変更だけなので、78JISが83JISになったときのように、文字そのものの入れ替えはありませんから、そこまで大きな混乱はないものと思われます。78JISと83JISで漢字そのものの入れ替えがあったのは次に示す22組です。16進コードはShiftJISで、83JISのコードで掲げました。78JISのコードは、反対側になります。
 
鯵88B1-鰺E9CB、鴬89A7-鶯E9F2、蛎8A61-蠣E579、撹8A68-攪9D98、竃8A96-竈E27D、潅8AC1-灌9FF3、諌8AD0-諫E67C、頚8C7A-頸E8F2、砿8D7B-礦E1E6、蕊8EC7-蘂E541、靭9078-靱E8D5、賎9147-賤E6CB、壷92D9-壺9AE2、砺9376-礪E1E8、梼938E-檮9E8D、涛9393-濤9FB7、迩93F4-邇E78E、蝿9488-蠅E5A2、桧954F-檜9E77、侭9699-儘98D4、薮96F7-藪E54D、篭9855-籠E2C4。
 
 ただし、今回の例示字形の変更が包摂の範囲内と言っても、JISが決めた包摂基準による漢字の同一視ですから、一般人が見たときに混乱が起こらないかというとそうではありません。
 
 特に影響が大きいと思われるのが、人名(特に苗字)や地名に関する部分です。
 
 「辻」という字は人名によく使われます。78年にJISが初めて漢字コードを策定した際、この漢字の例示字形は「2点シンニュウ」でした。NECのPC-9801シリーズは、後継の83JISが出された後も、永らくこの78JIS準拠のフォントを搭載していました。それが、83年の改正で「1点シンニュウ」となりました。Windowsマシンには、この83JIS準拠のフォントが搭載されています。「2点シンニュウの辻」が使えなくなった代わりとして、外字領域に「2点シンニュウの辻」を収録したフォントも数多くあります(拙作のY.OzFont群もその一例です)。そして、今回の2004改正で、また「2点シンニュウ」に戻されます。結果として、本来の辻が2点シンニュウになり、そのくせ外字領域にも2点シンニュウの辻があったり、かといって1点シンニュウの辻がどこにもなくなり、どうしよう……ってな状況になっています。
 
 「葛」も影響の大きい字です。今回の改正で、漢字下部の「ヒ」が、「Lの中に人」タイプに変わりました。これで「葛飾区」(正しくはLの中に人)が正しく表現できるようになったと同時に、「奈良県葛城市」(正しくはヒ)は表示できなくなってしまいます。現在、葛飾区のWebページでは、正しい葛の字を表示するために、その部分を「画像張り込み」で対応しています。今後、奈良県葛城市が、この様な対応を余儀なくされそうです。で、葛飾区は良いのかというとそうでもなく、今のままでしょう。なぜなら、普通のテキストにすると、見る人が使うフォントによって「ヒ」になったり「Lの中に人」になったりするので、結局総ての人が正しい字を見ることは期待できないからです。
 

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II.2 新たに収録することで対応した10文字

 
 新たに変更したい字形が既にUnicode上にある場合、つまり、日本以外のいずれかの国がそれと同じと見なせる漢字をUnicode Consortiumに提案し承認されている場合は、それを取り込むことで対応とするようです。たとえば、「上がノの呑」に対して「上が一の呑」にしたいのだけど、「上が一の呑」が既にUnicode上にあるため、「上がノの呑」はそのままにして新たに「上が一の呑」をJISに追加するというものです。
 
 これは、前項とは異なり、前の字形も残っている訳ですから、問題は少ないと思われます。
 
 同様の改正が、JIS2000の時にもありました。「鴎」に対して、「鷗」がUnicode上にあるため、それを取り込む形で「鷗」に対応しました。
 

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II.3 この改正の持つ問題点

 
 新規に収録された10文字については、その文字が表示可能なように追加されれば良いだけのことですから、特に問題はないと思います。問題なのは、例示字形が変更された168文字の方です。
 
 前に書いたとおり、「辻」や「葛」は比較的人名に良く用いられる漢字です。これらの漢字の内で例示字形でなくなる方、つまり「1点シンニュウの辻」や「ヒの葛」が苗字に使われている人にとっては、JIS2004対応フォントが世の中に広まるにつれて、徐々にその字形が表示できなくなっていきます。いや、今でさえ、どちらで表示されるのか確約できない怪しい文字になってしまっていると言えます。
 

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   III 人名用漢字の追加との関係

 
 2004年9月27日に、人名用漢字が追加されました。ここで追加された人名用漢字は、JISと大変関わり深いものになっています。
 
 今まで、JIS漢字やJISの改正は、どちらかというとJIS単独で行ってきたものであり、他の省庁との関わりはあまり感じられませんでした。
 
 今でもJISの提示するJIS漢字コードの表は、包摂を念頭に置いて考えられてはいます。しかし、JISとの関わりが深くなってきた「人名用漢字」は細かく漢字を指定しており、新しいJISの例示字形を用いたフォントでなければ、その人名用漢字の規定に答えられなくなってきました。
 
 と言うことは、いくらJISや経済産業省が、「JISは、漢字に対する符号(コード)を定める規格であり、字形は規定していない。このため、JISにおいては、今回の改正によって変更された字形と変更前の字形は、どちらも同じものとして取り扱っている。したがって今回の改正が、パソコンなどに搭載される字形の変更を求めるものではない。」と言っていても、実際問題、JIS2004例示字形に沿っていないフォントでは人名用漢字の規定を満たすことはできませんから、実用性がかなり薄くなるものと思われます。
 

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   IV Microsoftが提供するフォント

 
 新しいWindowsであるVistaには、現在もWindowsに標準装備されている「MS明朝」「MSゴシック」、および新しい『新開発の日本語ClearTypeフォント「メイリオ」』、これらが入るそうです。
 
 で、JIS2004対応とかの文字がMicrosoftのサイトにも書かれているので、総てのフォントがJIS2004対応なのかと思いきや、それは「MS明朝」「MSゴシック」のみで、新しい「メイリオ」はJIS2000対応なのだと。つまり「メイリオ」では、「辻」は「1点シンニュウ」で、「葛」も「ヒ」な訳です。で、これらの文書のフォントを「MS明朝」や「MSゴシック」に変えたとたん、「辻」は「2点」に、「葛」も「人」になると。なんだかな~、な対応だと言えます。
 

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IV.1 Adobe-Japan 1-6ベースのフォント

 
 新「MS明朝」「MSゴシック」は、Adobe-Japan 1-6ベースのOpenTypeフォントになるそうです。AJ1-3が所謂Stdフォント、1-4(以降)がProフォントです。1-6は、JIS X 0212、JIS X 0213に対応し、しかもJIS X 0208:1978の字形にも対応した、2万グリフを超えるフォントの規格です。今までのTrueTypeフォントとは少し違ったフォントで、Adobeの策定した巨大な外字システムと言えるようなフォントセットになっています。
 
 OpenTypeフォントには、たくさんの「文字や記号などのパターン」(グリフ)が収められていますが、それら総てにCIDと呼ばれる番号が付けられていて、その番号で管理されます。そのたくさんのグリフのなかで、Unicode上にあるグリフには、Unicodeのコードが関連づけられています。OpenTypeフォント完全準拠のアプリの場合、総てのグリフを用いることができますが、そうでないアプリの場合には、Unicodeのコードが関連づけられているグリフしか用いることはできません。
 
 では、Unicodeの割り当てられていないグリフはどうするのかというと、直接グリフ番号で指定するなどの方法で用います。ただし、これが出来るのはごく一部のアプリ上のみで、ほとんどのアプリからはUnicodeの割り当てられているグリフだけが扱えるに過ぎません。
 

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IV.2 辻や葛の使い分けは可能か

 
 「1点シンニュウの辻」はCID 3056、「2点シンニュウの辻」はCID 8267に収録されています。それも、「ユーザ任せの外字」などと言う方法ではなく、ちゃんとAdobeが策定したコードとして収録されています。「ヒ葛」はCID 1481、「人葛」はCID 7652、他にも「ネ榊」はCID 2135、「示榊」はCID 7686、など、決まったコードで収録されています。
 
 じゃあ、OpenTypeフォントを使えば、どっちの辻も葛も使えるのかというと、それは「使うアプリの方に依存する」のです。前述の通り、普通のアプリからは、Unicodeでアクセスすることしかできません。辻も葛も榊も、総てUnicodeが与えられているのは先に書いた方だけなので、「2点辻」「人葛」「示榊」は使えません。
 
 新しい「MS明朝」「MSゴシック」が、AJ1-6準拠のOpenTypeフォントになったからと言って、確かに新旧のグリフを内蔵しているからと言って、それが直ちに、新旧のグリフをユーザが自由に使い分けられるようになるとは言えないのです。
 
 次期WindowsであるVistaのベータ版が、出ているようです。それには、新しいMS明朝/ゴシックが入っているそうで、そのフォントを用いて表示した画面をアップしているサイトがあります。見て驚きました。新MSフォントを現行のWordで使っているのですが、出ている字形が新しい例示字形になっているのです。辻やら葛やらの新例示字形は、Std版のOpenTypeフォントでも持っているグリフですが、Unicodeが割り当てられてはいないので、Unicodeの割り当てられているグリフしかアクセスのできないWordなどの普通のアプリからは使えないはずです。それが特に何もせずに表示できてしまっているらしいのです。新しいOpenTypeフォントのCMAPテーブル(フォントに内蔵されているコードとグリフの対応表)は、以前のものと変えてあるのでしょうか。それだと、互換性の面で問題があります。私がその新しいMSフォントを持っていないので検証のしようもありませんが、何らかの非互換な変更が行われているのは事実でしょう。
 
 Adobe Acrobat 7.0には、OpenTypeの家元であるAdobe作成による「小塚明朝 Pro-VI R」というAJ1-6準拠のフォントが付いています。このフォント+秀丸エディタで実験したところ、「辻」はやはり「1点シンニュウ」でしたし、「葛」も「ヒ」でした。つまり、AJ1-6準拠のフォントであっても、確かにJIS X 0212~0213のグリフを持ち、JIS2004対応のグリフまで総て持っているのでJIS2004対応と呼ばれるのでしょうが、Unicodeのコードと対応するグリフは従前の規格のままであるのでしょう。よって、AJ1-6対応フォントを入れたところで、通常のOpenType完全対応アプリでグリフを変換しない限り、従来と同じ字形で表示されるはずなのです。このことからも、次期Windowsに入っているとされる「新MS明朝/ゴシック」の謎は深まります。
 

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IV.3 OpenType完全準拠のアプリ

 
 OpenTypeフォントに完全準拠のアプリは、現在の所非常に少ないです。OpenType規格を作ったAdobeの製品だけで、その中でもInDesignとIllustratorくらいのものです。
 
 いくら、MicrosoftがAJ1-6準拠のOpenTypeフォントになった「MS明朝」「MSゴシック」を出しても、MicrosoftのアプリであるWordやExcelがOpenType完全準拠のアプリにならないことには、結局どんなフォントを持ってこようが新旧いずれかのグリフしか使えないということになってしまいます。
 
 今のところ、WordやExcelがOpenType完全準拠アプリになるというニュースは聴いたことがありませんから、おそらく、AJ1-6という膨大な文字数を持つフォントを持ってきても、結局使えるのはUnicodeの割り当てられているJIS X 0208+0212+0213のグリフのみ、ってことになるのでしょう。
 

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   V Y.OzFont群の対応

 
 Microsoftが採用することで、時代がOpenTypeフォントに向かって流れていく気配がしてきました。
 
 しかし、Y.OzFont群を作成するのに使わせて頂いている「OTEdit/武蔵システム」は、AJ1-3または1-4のみの対応であるため、JIS2000の漢字を総て含むAJ1-5以上のフォントを作成できません。そのため、現時点では、AJ1-5ないしは1-6に対応したフォントエディタの登場を待つことになりそうです。
 
 Y.OzFont群は、現状でもAJ1-4の範囲内でUnicodeの割り当てられていないグリフも収録するなどの対応はしています。しかし、今のところは「505氏/charset.info」のお陰で自由に収録文字を設定できるTrueType版でやっていくのがベターだと思います。
 
 まあ、いかにOpenTypeフォントと言えども、Windows上の多くのアプリがOpenType完全準拠になってもらわないと、OpenType化する価値があまり感じられませんがね。
 

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V.1 TTEdit/OTEdit用新旧グリフ入れ替えCSV定義ファイル

 
 TTEdit/OTEdit(武蔵システム)を使って、新旧のグリフを入れ替えるCSV定義ファイルを作成しました。Webからダウンロードができるようにしておきます。もちろん、加工には同ソフトが必要です。
 

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V.1.a TrueTypeフォント用

 
 拙作のフォント(ペン字版)は、JIS2004で例示字形の変わった168のグリフについて、外字領域のSJIS F540~F5E8に、その代替となるグリフを入れてあります。例えば、フォント名に「4」の付くフォントはJIS2004対応フォントですが、その場合にはこの外字領域に以前の例示字形を入れています。フォント名に「4」の付かないフォントはJIS2000の対応ですから、新しいJIS2004の例示字形を外字領域に入れています。
 
 定義ファイル「XCHG_0_4.csv」は、標準の場所にあるグリフと外字領域にあるグリフとを交換するための定義ファイルです。
 
1) 使いたいフォントを別名でコピーします。TTEditで読み込んで、フォント名も変更しておいてください。
 
2) TTEditの一括コピー機能で、元になるフォントから新しいフォントへ、「コピー文字コード」を「□CSVファイルで指定」し、「ファイル」に「XCHG_0_4.csv」を指定してコピーします。
 
 また、JIS2000対応のフォントについては、外字領域のSJIS F840~F9F1に入っているJIS2004例示字形(総てではありません)と標準字形とを交換する方法もあります。それを交換するための定義ファイルが、「XCHG_0_4b.csv」です。手順は上記の「XCHG_0_4.csv」を使う場合と同じです。
 
 「XCHG_0_4.csv」を使って作成したファイルに、更に「XCHG_0_4b.csv」を使用することは避けてください。もし、JIS2000対応フォントについて、標準字形をJIS2004例示にして、「SJIS F540~F5E8」と「SJIS F840~F9F1」の両方をJIS2000例示字形にするには、次のようにします。「XCHG_0_4c.csv」を使ってください。
 
 それぞれ、以下のURLからダウンロードできます。
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/XCHG_0_4.csv
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/XCHG_0_4b.csv
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/XCHG_0_4c.csv
 

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V.1.b OpenTypeフォント用

 
 OpenTypeフォントは、本稿でも述べてきているとおり、Unicodeが割り当てられていないので通常のアプリからは使用できないが、グリフとしては内蔵しているものが多数あります。通常の使い方では、OpenTypeフォントはJIS2000以前の例示字形で表示されますが、今回のJIS2004で変更された新しい例示字形のグリフも、主なものは初めから持っているのです。
 
 と言うことで、Std版フォント(AJ1-3準拠)でも持っているJIS2004対応グリフと、JIS2000以前のグリフとを交換してしまうための定義ファイルを作成しました(*1)。「2004CID_AJ1-3.csv」がそれです。全部のグリフを入れ替えることはできませんが、辻や葛など、主だったものは対応できます。対応していないグリフの多くは、『「 \_ 」という線の始まり部分に「 /\_ 」と言う感じに装飾を付けている文字の、その装飾部分を取る』というタイプの例示字形変更のものです。
 
(*1) この定義ファイルのバージョンアップに伴い、AJ1-4部分も追加しました。AJ1-4部分に入っているのは僅かではありますがね。なお、AJ1-4部分対応版は「2004CID_AJ1-4.csv」、AJ1-5対応版(OTEditがAJ1-5に未対応ですが……。)の「2004CID_AJ1-5.csv」もアップしてあります。
 
1) 使いたいフォントを別名でコピーします。どうせ使えるのはUnicodeの割り当てられているグリフだけだからとお考えの方は、OTEditの一括コピー機能を用いて、Unicode(又はシフトJISコード)指定でコピーするようにしても良いでしょう。いずれにしても、コピーしたファイルをOTEditに読み込んで、フォント名を変更しておいてください。
 
2) OTEditの一括コピー機能で、元になるフォントから新しいフォントへ、「コピー文字コード」を「□CSVファイルで指定」し、「ファイル」に「2004CID_AJ1-4.csv」を指定してコピーします。
 
 以下のURLからダウンロードできます。
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/2004CID_AJ1-3.csv
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/2004CID_AJ1-4.csv
http://yozvox.web.infoseek.co.jp/2004CID_AJ1-5.csv
 

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   VI 今後のフォントを取り巻く情勢

 
 今まで、JISの例示字形と人名用漢字とは、全く独立して考えられてきたように思います。それが、今回のJIS2004と新たな人名用漢字からは、明らかにお互いを意識した規格として策定されてきています。この流れは、今後変わることはないと言えるでしょう。
 
 人名用漢字がJIS2004字形をベースに策定されているということからも、今後は、グリフがJIS2004字形であるフォントでないと問題だと言われるかも知れません。TrueTypeフォントの場合グリフの切り替えはできませんから、そのようなフォントの場合JIS2000字形が出せない(外字領域などに独自に入れることは可能)ことになりますが、それ以上にJIS2004対応していないことの方が問題視されそうです。
 
 更には、OpenTypeフォントと言えども、デフォルトがJIS2004字形になるようなアプリ(IMEのようなもの!?)が必須なのかもしれません。まあ、OpenTypeフォントのCMAPテーブル(フォントに内蔵されているコードとグリフの対応表)自体を変更することは問題でしょうから、こういった対応にならざるを得ないと言うことになります。こちらは、逆に通常のOpenType完全対応アプリ以外から用いる場合にJIS2004例示字形が出るようでは問題だと言えます。
 

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VI.1 Y.OzFont群の未来

 
 ということで、Y.OzFont群は、TrueTypeフォントはJIS2004例示字形の採用、OpenTypeフォントは現状のまま、という選択肢を取るのが賢明のように思います。その場合、TrueTypeフォントの外字領域の字形をどのようにするかは、考えどころであるとは思います。OpenTypeフォントについては、OTEditがAJ1-6対応(もしくはAJ1-5対応)になってくれると良いのですが。それまでは現状のままでしょう。
 
 ってことで、TrueType版Y.OzFont群のベースを、JIS2004対応にしていく計画をねっております。で、そのなかで、フォント名自体をどうするかという検討を余儀なくされることになっています。
 
1) 現在のフォント名を最大限活かす方法
    Y.OzFontN →(JIS2000対応のまま)→ そのまま
    Y.OzFontN4 →(JIS2004対応のまま)→ そのまま
    Y.OzFontNB →(JIS2004対応化)→ Y.OzFontNB4
    Y.OzFontNP →(JIS2004対応化)→ Y.OzFontNP4
 JIS2004対応フォント群の名前は、Y.OzFontN4、Y.OzFontNB4、Y.OzFontNP4、となる。JIS2000対応フォントは、Y.OzFontN、のまま。
 
2) 現在のフォント名をチャラにして、新フォント名を考える方法
    Y.OzFontN →(JIS2000対応のまま)→ Y.OzFontN0(ゼロ。オーではない)
    Y.OzFontN4 →(JIS2004対応のまま)→ Y.OzFontN
    Y.OzFontNB →(JIS2004対応化)→ そのまま
    Y.OzFontNP →(JIS2004対応化)→ そのまま
 JIS2004対応フォント群の名前は、Y.OzFontN、Y.OzFontNB、Y.OzFontNP、のまま。JIS2000対応フォントは、Y.OzFontN0、となる。結果的に、Y.OzFontNと言う名前のフォントは、フォント名も何もそのままに2004対応になったように見える。
 
 どちらがよいのでしょうかね。もちろん、現在バリバリに使っていらっしゃる方(そんなにいるのか!?)からすれば1)の方がよいのは目に見えていますが、天下のMicrosoftが2)の方法でMS明朝/ゴシックを改編するんですからねぇ。
 

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VI.2 市販フォントの未来

 
 ここまでつらつらと書いてきましたが、市販のフォントはどうなっていくんでしょうね。自分なりにY.OzFont群の持って行き先は考えましたが、あまり他の市販フォント群と異なっても不便なだけですし。まあ、確かにTrueTypeフォントをJIS2004完全対応にするには、かなりの数のグリフを作成しなければなりませんから、多くのフォントを出しているメーカーにとって、大変なことであるのはよくわかるのですが。方向性だけでも示してくれるメーカーが出てくると有り難いのですがね。
 

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   VII 追補1 -- JIS X 0208について

 
 本稿では、新しい規格であるJIS X 0213についてばかり書いてきましたが、現行のフォント(市販であるかフリーであるかにかかわらず)の多くがよりどころとしているJIS X 0208について、ここにまとめておきます、
 

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VII.1 JIS X 0208とJIS X 0213(:2004)との関係

 
 JIS X 0213は、2000年に初版が発行され、その後、2004年に改訂されたことは前に述べたとおりです。では、所謂JIS第1~2水準漢字を定めたJIS X 0208はどうなったのでしょうか。
 
 JIS X 0208は、1978年に初版が発行され、有名な1983年改訂を受け、その後1990年、1997年と改訂されています。1997年の改訂は、改訂と言うより、包摂基準などが曖昧な内に無理矢理なされてしまった感のある1983年改訂に対して、包摂基準をきちんとした意味で整合性有るものにまとめようという定義のようなものです。
 
 JIS X 0208以外の規格としては、1990年発行のJIS X 0212、所謂「補助漢字」があります。これは名の通りJIS X 0208を「補助」する「漢字」の集合で、JIS X 0208と併用する為のものです。補助漢字は、実装方法(どのようにフォントとしてコンピュータ上で扱うのか)に問題があり、当時全盛だったShift JISコードで使用できないなど、普及はしませんでした。しかし、Unicodeを作るとき、日本から「この漢字を収録して欲しい」として提出したリストに、「JIS X 0208:1990(第1~2水準漢字)とJIS X 0212(補助漢字)」として含まれましたので、補助漢字は総てUnicodeに含まれています。JIS X 0213が、発行当時総ての漢字がUnicode上に有った訳ではなく、総てが登録された今となっても302の漢字については「CJK Unified Ideographs Extension B / Range: 20000-2A6DF」と言うBMP(Basic Mapping Plain, 基本多言語面)ではない所に押しやられたのとは対照的です。
 
 では、JIS X 0213がどういう規格なのかというと、補助漢字JIS X 0212が「第1~2水準漢字JIS X 0208と併用し、それらを補助する漢字群」の規格だったのに対し、JIS X 0213は「第1~4水準漢字を含む規格」なのです。つまり、JIS X 0213は、JIS X 0208との併用ではなく、単独で第1~4水準を含んでいるのです。
 
 第1~2水準漢字を含んでいるかどうかは、大した違いは無さそうですが、実は大ありなのです。例えば今、JIS X 0208だけが改訂されたとしましょう。補助漢字を使う場合は、JIS X 0208と併用する訳ですから、そのJIS X 0208改訂は活きてきます。しかし、JIS X 0213を使う場合、第1~2水準漢字も自前で持っているので「JIS X 0208は不要」である、つまり、JIS X 0208がどんな風に改訂されようが、既にJIS X 0208と決別している以上無関係と言うことになるのです。
 
 裏を返せば、今回のJIS X 0213の2004年改定は、単独で第1~2水準漢字を定めているJIS X 0208:1997には「無関係」だと言うことなのです。JIS X 0213:2004の例示字形の変更は、あくまで第3~4水準漢字があって整合性を持つものですから、JIS X 0208では適用させられなかったのでしょう。
 
 誤解の無いように書いておきますが、今回問題にしている「例示字形の変更」は対象となる168文字の内で実に167文字までが第1~2水準漢字に関するものですが、ここでの第1~2水準漢字とは、JIS X 0213の持つ第1~4水準漢字の内の第1~2水準漢字部分という意味であって、JIS X 0208:1997の第1~2水準漢字には無関係であることを覚えておいて頂きたいと思います。
 
 このことは、市販フォントであっても、「JIS X 0208:1997対応」と書いておけば、特に例示字形の変更を行う必要がない、いや、行ってはならないものだと言えます。
 
【JIS X 0208で、やむを得ず包摂するとされていたもの】
唖焔鴎噛侠躯鹸麹屡繍蒋醤蝉掻騨箪掴填顛祷涜嚢溌醗頬麺莱蝋攅
 
【JIS X 0213で、包摂規準の適用が除外されたもの】
侮併僧免勉勤卑即喝嘆器塚塀増墨寛層巣廊徴徳悔慨憎懲戻掲撃敏既晩暑暦朗梅概横欄歩歴殺毎海渉涙渚渇温漢瀬煮状猪琢瓶研碑社祉祈祐祖祝神祥禍禎福穀突節緑緒縁練繁署者臭著薫虚虜褐視諸謁謹賓頼贈逸郎都郷録錬隆難響頻類黄黒
 
【JIS X 0213:2004で、例示字形の変更されたもの】
逢芦飴溢茨鰯淫迂厩噂餌襖迦牙廻恢晦蟹葛鞄釜翰翫徽祇汲灸笈卿饗僅喰櫛屑粂祁隙倦捲牽鍵諺巷梗膏鵠甑叉榊薩鯖錆鮫餐杓灼酋楯薯藷哨鞘杖蝕訊逗摺撰煎煽穿箭詮噌遡揃遜腿蛸辿樽歎註瀦捗槌鎚辻挺鄭擢溺兎堵屠賭瀞遁謎灘楢禰牌這秤駁箸叛挽誹樋稗逼謬豹廟瀕斧蔽瞥蔑篇娩鞭庖蓬鱒迄儲餅籾爺鑓愈猷漣煉簾榔屢冤叟咬嘲囀徘扁棘橙狡甕甦疼祟竈筵篝腱艘芒虔蜃蠅訝靄靱騙鴉
 
【JIS X 0213:2004で、新たに収録されたもの】
俱/倶 剝/剥 /叱 吞/呑 噓/嘘 姸/妍 屛/屏 幷/并 瘦/痩 繫/繋
 

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VII.2 人名用漢字との整合性

 
 JIS X 0208が例示字形の変更を行わず、新たな漢字を収録する訳でもない、そのため、JIS X 0208対応のフォントでは、「2004年9月27日に公示された戸籍法施行規則の改正」に充分に応ずることができません。
 
 これについては、「財団法人 日本規格協会 情報技術標準化研究センター」からの報告書が、以下の場所からPDFファイル形式でダウンロードできます。
 
> ▼ 人名用漢字の文字符号に関する規格検討会報告を公開いたします。
> http://www.jsa.or.jp/domestic/instac/namaeKanji/preface-1.htm
 
> なお、今回の人名用漢字の拡大は法令に基づく施策の実施であり、今後、この
> 施策内容を正確に対応できるより新しい規格(JIS X 0213)に基づく製品が普及
> していくと思われる。しかしながら、広く普及している現規格(JIS X 0208)と
> 比較して、新規格は大幅な字体変更や文字集合の拡大があり、利用者の混乱を
> 招く可能性が高い。このような状況を極力防ぐために、業界と政府が一致協力
> し、国民に対して十分な公報・啓発等の活動を実施することが重要である。
 
 この中で詳しく述べられているので、それをご覧ください。
 
 ただ、JIS X 0208を用いても、外字などを適切に利用することにより、表面上は正しい人名用漢字を印字することは可能です。しかし、その情報通信用の「文字符号」としてみた場合、それは全く不正確なものとして、使用することはできません。
 
 印刷を専門にされる方々にとっては、このような外字などの独自文字を作っての対応(出力した文字の切り貼り作業で作られたものなど)は、昔から当たり前のことであったと思われます。印刷がメインであればこの方法が無難というか当たり前でしょう。しかし、文字コードとしての対応でないことの欠点として、そうやって作成された文字のフォントを変えたい場合、総て文字を作り直す必要が出てきます。
 

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VII.3 Y.OzFont群の対応 -- JIS X 0208対応

 
 JIS X 0208も視野に入れて考えると、形が見えてきます。拙作Y.OzFont群には、はっきりとそう銘打っている訳ではありませんが、JIS X 0208対応に極めて近いバージョンがあります。そうです。「SJIS版」です。
 
 「SJIS版」(Shift JIS版)は、何がShift JISなのかよく分からないネーミングですが、まあ、つまり、Shift JIS範囲の文字しか扱えないWindows 95/98/Meで使える文字のみ収録したフォントという意味にとってもらえればよいかと思います。別に、フォントの構造自体がShift JISベースで作られているとか、そんな訳ではありません。
 
 と言うことで、SJIS版をJIS X 0208:1997対応版としてユニークな名前を新たに付けて残す、通常のUnicode版はJIS X 0213:2004対応版として総て例示字形を変更する、この形がベストではないかと思います。無駄にフォント数が増える訳でもありませんし。
 
 例えばNシリーズ[新かな版]であれば、JIS X 0213:2004対応版を素直にY.OzFontN、Y.OzFontNB、Y.OzFontNP、としておき、JIS X 0208:1997対応版の方をY.OzFontN97、Y.OzFontNB97、Y.OzFontNP97、(あるいはY.OzFont0やY.OzFont00)とかにすると言うようなのはどうでしょうか。
 

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VII.4 今後の日本語フォントの対応予想

 
 今回の例示字形の変更による漢字の細かな違いを気にするのは、人名や地名などの場合だけで、それ以外の印刷物においてこれらの字体の違いを気にする人はごく少数であると思われます。そのごく少数の人でさえ、自分に関係のない人名や地名についてはほとんど気にしないのではないかと考えられます。
 
 JIS2004での例示字形の変更は、もちろん包摂の範囲内です。その程度の違いですから、印刷される漢字がいきなりJIS2004対応になっても、多くの人は気にしない、というより気が付かないと思われます。気が付いた場合であっても、「あぁ、正字や旧字で印刷されているんだな」とか感じるだけで、それ以上の感覚は無いのではないでしょうか。
 
 と言うことで、Microsoftがやるように、フォント名はそのままに内容をJIS X 0213:2004対応版に変えるのが、長い目で見るとベターであるように思います。もちろん、特に区別したい人のために、外字などの形でグリフを収録して使える状況を作ることは必要であると思いますが。

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